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東京地方裁判所 平成2年(ワ)11912号 判決 1992年12月24日

原告

竹村英明

安部竜一郎

石川もと

尾下正大

海渡雄一

木村結

工藤昇

小林哲雄

坂口信夫

菅井益郎

鈴木紀雄

滝本大助

塚本勝男

塚本康雄

中手聖一

樋口健二

広瀬隆

堀江鉄雄

丸木俊

山崎久隆

右原告ら訴訟代理人弁護士

丸井英弘

青木秀樹

岡部玲子

被告

東京電力株式会社

右代表者代表取締役

平岩外四

右訴訟代理人弁護士

西迪雄

海老原元彦

向井千杉

富田美栄子

谷健太郎

主文

原告らの請求を棄却する。

訴訟費用は原告らの負担とする。

事実

第一  請求の趣旨

被告の平成二年六月二八日開催の第六六回定時株主総会における、平成元年度利益処分案を原案のとおり承認する旨の決議を取り消す。

第二  当事者の主張

一  請求原因

1  (当事者)

原告らは、いずれも被告の単位株式を保有する株主である。

2  (本件決議)

被告の第六六回定時株主総会(以下「本件総会」という。)が、平成二年六月二八日、「平成二年三月三一日現在貸借対照表及び平成元年度(平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで)営業報告書、損益計算書報告の件」及び「平成元年度利益処分案承認の件」を目的として開催され、平成元年度利益処分案を原案どおり承認する旨の決議(以下「本件決議」という。)がされた。

3  (本件決議の瑕疵)

(一) 説明義務違反

(1) 事前質問状記載の事項について

① 原告らは、被告に対し、本件総会に先立ち多数の質問状(以下「事前質問状」という。)を提出した。被告は、本件総会において、これに対して一括して説明を行った。

しかし、右のいわゆる一括説明では、喧騒のために聞き取れなかった部分を含めて、別紙質問事項(一)記載のような、被告の経営にとって極めて重要で議題の合理的判断をするに当たって不可欠な前提となる事前質問状記載の事項について、説明がされず、又は説明が質問内容とかみ合わず不十分であった。

そこで、原告らを含む一〇〇名を超える株主が質問の意思表示をしたが、議長が指名して質問を受け付けたのは、事前質問状を提出していない株主を含めてわずか七名であった。議長は、質問の意思表示をしている株主がまだいることを知りながら、質問受付を打ち切り、改めて質問する機会を与えなかった。

② ところで、事前質問状を提出して株主総会に出席した株主が、一括説明において事前質問状に記載した事項について説明がされなかったために改めて質問の意思表示をしたが、議長に指名されなかった場合には、その株主が右意思表示をした時点で質問権の行使があったものとみなし、事前質問状に記載した事項の全部について会社に説明義務が生じると解すべきである。このように解さないと、会社は、まず、事前質問状に記載された事項のうち説明したくないものについて一括説明では説明を省略し、次に、これに不満の株主が質問するために挙手しても、だれを指名するかは議長の権限であることを理由にその株主の指名を避けることによって、説明したくない事項の説明を行わずに済み、違法性を問われないことになってしまう。

したがって、本件総会においては別紙質問事項(一)記載の事項について説明義務が尽くされていないから、本件決議には決議の方法が法令に違反するという瑕疵がある。

(2) 原告広瀬の質問について

① 原告広瀬は、同人が事前質問状に記載した別紙質問事項(二)記載の事項に対して一括説明で説明がされなかったので、本件総会において指名され、説明を求めた。

しかし、原告広瀬が質問を始めたところ、総会屋らの怒号により議場は混乱状態に陥ったのに、議長は、議場内の静粛を回復しようとする措置を全く執らず、むしろこれを助長しようとした。

さらに、原告広瀬の発言中に、議長が質問の打切りもマイクを下げる指示もしなかったにもかかわらず、マイク係が勝手にマイクを下げたことにより、原告広瀬の発言が遮られた。そのため、抗議の声などで会場は騒然となり、会場が混乱する中で被告の池亀常務取締役が立ち上がって何事かを述べたが、その声は喧騒にかき消されて、何を話したか全く不明であった。

この後、たまたまマイクが近くに来たため原告広瀬の質問が再開されかけたが、議長は、今度は五秒で別の株主の動議を採り上げ、質問をうやむやのうちに打ち切った。

② 右のような場合には、右(1)②記載の場合と同様に、事前質問状に記載したが説明がされなかった事項について質問権の行使があったものとみなし、説明のなかった事項の全部について説明義務が生じると解すべきである。

したがって、本件総会においては別紙質問事項(二)記載の事項について説明義務が尽くされていないから、本件決議には決議の方法が法令に違反するという瑕疵がある。

(3) 原告坂口の質問について

① 本件総会の質問受付開始後、最初に指名された株主から「議決権行使書に記載されている整理番号に、脱原発の株主を区別するためのDという記号が打たれているのはどういうことか」という質問がされ、これについて、被告の荒木常務取締役は、「その件については、昨日の夜、マスコミの方から聞かれて初めて知った。代行会社(東洋信託銀行)が、仕事上、コンピュータの記号を付けたと理解している。これについては全く知らない」旨の説明をした。

この説明に関して、原告坂口は、「本件総会の前日まで被告がD記号の件について知らなかったと述べたことは少なくとも虚偽ではないのか、また、D記号については東洋信託銀行も知らないと言っているが、コンピュータの入力はだれがしたのか」について質問をした。これに対し、議長は、「先程、荒木常務が回答したとおりである」旨の説明をした。

しかし、これらの説明は虚偽であり、虚偽の説明をすることは説明義務に違反する。また、原告坂口の質問に対する説明は全くされていない。したがって、本件決議には、右の点について決議の方法が法令に違反するという瑕疵がある。

② 原告坂口が六点について質問したい旨を述べたところ、総会屋らが激しく怒号したが、議長は、かかる脅迫的な言動について何の措置も執らなかった。次いで、原告坂口が五点について質問したい旨を述べたところ、議長は、その五点が何の事項に関わるものかを確認しようとせず、三分以内の質問しかさせない旨を述べた。

原告坂口は、これらの議長の不当な指揮により、本来すべき質問を十分にすることができなかった。したがって、本件決議における右の議長の行為は説明義務に違反するから、本件決議には決議の方法が法令に違反するという瑕疵がある。

(二) 議案審議及び議事運営の瑕疵

本件決議には、次のとおり、決議の方法が著しく不公正であるという瑕疵がある。

(1) 議案審議の瑕疵

① 株主一名から提出された修正動議が否決された後に、なお修正動議を提出しようとして多数の手が挙げられたところ、議長は、株主四〇番(以下、本件総会に出席した株主を、その出席番号により右のように表記する。)を指名した。しかし、議長は、その指名に対して株主四四番を名乗る株主が発言しているにもかかわらず、その発言を制止しなかった。そして、この株主が「議決権行使書を含めれば、会社の原案は採択されたのも同然だ。原案を先に採択せよ」という旨の動議を提出したところ、議長は、これによって審議を打ち切り、原案を採決して、本件総会開始後約二時間を経過した午前一二時を過ぎた時点で本件総会を終了させた。

このように、議長は、指名された株主とは違う株主が発言しているにもかかわらず制止しないという作為的な議事進行を行い、多数の修正動議要求に対して一名しか受け付けず、原案に対する質疑応答の機会を与えずに採決した。

② 仮に議長が株主四四番を指名していたとしても、議長が、その入場票の番号を読める距離にいなかった状況で株主を番号で指名する行為は、その株主が株主四四番であることを知っていたことを示しており、意図的な、予定された指名であることは明らかである。このことは、あらかじめ審議打切りの動議を特定の株主が提出する手筈が決まっており、議長が指名した以外の人物が発言をしても、発言の趣旨がその手筈と合致していることから、議長はこれを問題とせず、原案の採決に強引に持ち込んだことを意味する。

このように、特定の株主と結託し、意図的に株主総会における株主の権利を封じる目的で行われた議事運営によって得られた決議は、著しく不公正である。

(2) 著しく不公正な議事運営方法

① 議長は、株主二五番及び株主一番から、本件総会の散会の動議が出されたにもかかわらず、これを議事に付さなかった。

② 議長は、議長不信任動議を議長の交代もせず採決にかけた。

③ 被告は、事前にいわゆる総会屋と結託して本件総会の議事進行を打ち合わせ、総会屋らの野次によって原告らを含む株主らの発言の機会を封じた。

④ 右(一)(3)①記載の原告坂口の質問事項は、本件総会が被告の不公正な差別意思に基づいて運営されているのではないかという重大な疑問を投げ掛けるものであるから、議長としては、これを最優先的な議事進行に関する議題として取り扱うべきものであるのに、議長は、これを全くしていないばかりか、前記のように原告坂口の質問自体を無視し、これについての説明をさせない態度を取った。

(三) 招集手続の瑕疵

被告は、いわゆる脱原発株主の議決権行使書の整理番号中にDの記号を付け、その株主らに対する招集通知の到着を大幅に遅らせた。被告がこのような社会的合理性のない差別的取扱いをしたことは、株主平等を定めた商法二四一条の規定に反し違法であり、招集手続に瑕疵があったというべきである。

二  請求原因に対する認否及び被告の主張

1  請求原因1及び2は認める。

2  請求原因3について

(一) 請求原因3(一)について

(1)① (一)(1)①のうち、原告らが多数の事前質問状を提出したこと、及び被告がこれらに対していわゆる一括説明を行ったことは認める。また、議長が、多数の株主が質問のために手を挙げていることを知りながら、質問受付を打ち切り、改めて質問する機会を与えなかったことについては明らかに争わない。その余については争う。

② (一)(1)②については争う。

説明義務は、当該株主総会における会議の目的たる事項に関し、しかも議題の合理的判断のために必要な限度で、換言すれば実質的議題関連性が認められる限りにおいて生じるのであり、被告は、右趣旨に照らして、事前質問状記載の事項につき、適宜これを一括して説明したのであって、原則として、これにより質問に対する説明義務は履行されている。

もし、この説明を不十分とするのであれば、出席株主である限り、別途質問権を行使すれば足りるのであるが、総会席上における質問権の行使も、単にそれが一括説明に包含されなかったことを理由として当然に認められるものではなく、それが実質的議題関連性を有する限りにおいて認められ、また、その行使は、議長の指示に従い、適式に行われなければならない。

また、発言希望者が多数である場合における発言株主の指名等は、議長の議事運営上の合理的裁量に属する問題であり、相当の時間をかけて質疑応答がされ、審議が尽くされている限り、発言を希望する株主のすべてに発言の機会を与えなければならないものではない。

(2)① (一)(2)①のうち、原告広瀬が指名されて、同人の事前質問状に関する発言をしたことは認め、その余については争う。

原告広瀬は、議長からの再三の注意にもかかわらず、福島第二原子力発電所3号機の事故に関する意見表明を続けて被告の対応を非難し、発言時間の制限を無視する旨述べるなど議長の指示に従わなかった。その結果発言時間が長くなったため、議長は、原告広瀬の発言を制止し、議長が質問事項として把握できた、重大事故に至る可能性の有無及び原子力発電所の運転マニュアル改訂の科学的根拠について、池亀常務取締役に回答させたのであり、被告に説明義務違反はない。

② (一)(2)②については争う。

(3)① (一)(3)①のうち、質問受付開始後、最初に指名された株主からD記号について質問がされたこと、荒木常務取締役がD記号の意味について知らない旨の回答をしたこと、原告坂口が更にD記号について質問をしたこと、及び議長が荒木常務取締役が回答したとおりである旨説明をしたことは認め、その余については争う。

議決権行使書にD記号が付されている理由は、本件総会の目的事項とは無関係であり、説明義務の対象とはならないうえ、これが議決権の行使に影響を及ぼす余地はない。

② (一)(3)②については、原告坂口から質問は五点ほどあるが全部言ってよいかとの発言がされたので、議長が質問は三分以内でお願いする旨述べた限度で認め、その余は争う。

(二) 請求原因3(二)について

(1) (二)(1)のうち、利益処分案が上程されて修正動議が提出され否決されたこと、株主四四番が発言したことは認め、その余については争う。

議長は、「動議」と発声する者のうちから、「四四番」と呼称するとともに、手で指し示して株主四四番を指名し、指名を受けた株主四四番が発言したのであって、何ら作為的な議事進行を行ったものでない。

そして、原案を上程する前に、すでにこれに関連する十分かつ適切な質疑応答がされ、原案に対する修正動議が否決されており、その後指名された株主三二二番及び株主四四番が議長の職権発動を促す趣旨と解される発言をしたので、議長は、職権をもって原案の採決を議場に諮ったのであって、手続上の瑕疵はない。

また、議案の審議に入って修正動議が提出される前の段階で、既に大株主の代理人を含む出席株主の多数から原案に賛成の意が示されており、この時点で原案は可決されたとすら評価可能な状態であった。その後原告らをはじめとする脱原発株主らが動議を提出する意思表示をしたが、提出された修正動議も否決されたのであるから、株主三二二番及び株主四四番の発言を待つまでもなく、客観的に議案採決に熟した状態であった。したがって、株主四四番の指名をもって議案の審議に瑕疵があることにはならない。

なお、被告は、五五〇〇項目にも及び、かつ、その大半が原子力発電に関する細かな内容で占められていた原告らの事前質問状に対しても説明義務の範囲を超えて極力丁寧に回答したうえ、原子力発電に反対する自らの一方的意見を開陳し、議事を混乱させ、長時間総会をもくろんで本件総会に臨んだ原告らをはじめとする脱原発株主らからも可能な限り公平に質問や動議を受け付けており、相当な時間をかけて審議が行われたのである。一方、原告ら脱原発株主らは、本件総会において議長の指示に従わず、議長や議長に指名された取締役の発言中にも大声で不規則妨害発言を繰り返し、自席を離れて騒ぐに至ったのであり、作為的な議事運営によって公正な審議の機会が奪われたという原告らの主張は失当である。

(2) (二)(2)①のうち、株主一番から本件総会の散会の動議が提出されたことは認め、その余については争う。

株主一番から提出された散会の動議に対して、議長は、特に日を改めて再度招集する必要性は認められないので、このまま議事を続けたい旨を議場に諮ったところ、大株主の代理人の賛成を含め、出席株主の過半数が議事を続けることに賛意を表明したものである。

(二)(2)②は認めるが、そのことが著しく不公正な議事運営に当たるという主張については争う。

(二)(2)③については争う。

(二)(2)④のうち、坂口の質問事項を最優先的な議事進行に関する議題として扱わなかったことについては明らかに争わないが、その余については争う。

(三) 請求原因3(三)について

議決権行使書の記号番号、招集通知の到着に関する事項は不知、その余は争う。

理由

一請求原因1及び2の事実は、当事者間に争いがない。

二請求原因3(一)(説明義務違反)について

1  事前質問状記載の事項に対する説明義務違反の主張について(請求原因3(一)(1))

(一)  本件総会において、議長が、多数の株主が質問の意思表示をしていることを知りながら、質問受付を打ち切り、改めて質問する機会を与えなかったことについては、被告は明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。

(二)  この点につき、原告らは、事前質問状を提出して株主総会に出席した株主が、事前質問状に記載した事項について一括説明により十分な説明がされなかったために改めて質問の意思表示をした場合には、議長に指名されなかったときでも右事項について会社に説明義務が生じる旨主張する。

しかしながら、質問書の事前送付の制度は、質問予定事項を事前告知することにより、当該事項につき調査を要することを理由に説明拒絶ができなくなるという効果を生じさせるものであって(商法二三七条の三第二項)、株主総会における質問に代替する書面による質問を認めたものではないから、株主から質問事項書の事前送付があった場合においても、当該株主が株主総会の場で実際に当該事項について質問をしない限り質問があったとはいえず、したがって、これに対する説明義務が生じることはない(同条一項参照)。そして、このことは、当該株主が株主総会に出席して質問を求める意思表示をしたが議長に指名されないため結局その質問をしなかった場合についても、実際に質問がされなかった以上変わりはないというべきである。

(三)  もっとも、株主総会において、多数の株主が質問の意思表示をしているにもかかわらず、議長がこれらの株主を指名することなく質問の受付を打ち切った場合には、取締役及び監査役に課された説明義務違反の問題が生じる余地がある。

しかし、株主総会における説明義務は、会議の目的たる事項の合理的判断のために必要となる情報が審議の中で出席株主に対し提供されるようにするために取締役及び監査役に対し課されたものであるから、取締役及び監査役は、会議の目的たる事項に関連しない質問について説明を拒絶することができる(同条一項ただし書)ことはもちろん、会議の目的たる事項の合理的な判断のために必要と認められない質問についても、説明を拒絶することができると解するのが相当である。

したがって、議長は、株主がなお質問を希望する場合であっても、議題の合理的な判断のために必要な質問が出尽くすなどして、それ以上議題の合理的な判断のために必要な質問が提出される可能性がないと客観的に判断されるときには、質疑応答を打ち切ることができ、このような議長の措置については説明義務違反の問題は生じないというべきである。

(四)  ところで、本件総会の目的は、前記のとおり「平成二年三月三一日現在貸借対照表及び平成元年度(平成元年四月一日から平成二年三月三一日まで)営業報告書、損益計算書報告の件」及び「平成元年度利益処分案承認の件」であったところ、右に述べたとおり、説明義務違反の有無は議題との関連において考慮すべきものであるから、複数の議題が審議された場合に、ある議題について説明義務違反の瑕疵があったとしても、それが他の議題についても当然に瑕疵となるものではない。したがって、仮に本件総会の議題のうちの報告事項に関する質問に対して説明義務が尽くされなかったとしても、その質問が本件決議事項である「平成元年度利益処分案承認の件」の合理的な判断のために必要な質問でなかった場合には、本件決議に瑕疵があったということはできない。

さらに、株主総会が多数の株主により構成される機関であり、説明の相手方が多数人であることを考え併せると、説明義務は、その議題が決議事項である場合には、平均的な株主が議決権を行使するに当たり合理的な判断をするのに必要な範囲で説明がされれば尽くされているというべきである。

(五)  以上の考え方を前提として、本件総会において議長が質疑応答を打ち切ったことが本件決議事項についての説明義務違反となるか否かについて検討する。

(1) (一括説明の内容)

原告らが本件総会に先立ち多数の事前質問状を被告に提出し、被告がこれらに対し本件総会において一括説明を行ったことについては、当事者間に争いがない。

① <書証番号略>によれば、右の一括説明において、那須社長が営業活動、広報活動、電気料金制度、電力需要、電力供給力の確保対策、環境問題、新規事業への進出、株主に対する配当及び株式の無償交付並びにコストダウンの各項目ごとに経営全般について説明をしたこと、次に、岩佐副社長が貸借対照表、損益計算書及び附属明細書の主要科目について説明をしたこと、続いて、池亀常務取締役が福島第二原子力発電所3号機原子炉再循環ポンプの事故の概要、原因及び再発防止対策、原子力発電所の設備の設計及びその機能維持、原子力発電所の作業従事者の放射線管理、低レベル放射性廃棄物、原子燃料の輸送、原子力防災及び原子力保険、原子力広報、原子炉の廃止措置並びに使用済燃料の再処理及び高レベル廃棄物の各項目ごとに原子力関係の説明をしたことが認められる。

② ところで、原告らは、一括説明の一部については内容を聞き取ることができなかった旨を主張する。

しかし、<書証番号略>によれば、一括説明がされている間に議場で様々な不規則発言がされたことが認められるものの、その多くは説明に呼応する形での野次であって、説明が聞こえなかったならば発言されなかったであろう性質のものであることが認められる。また、<書証番号略>によれば、一括説明後に株主一番が一括説明の在り方に対して疑問を述べ、かつ、本件総会の散会を求める動議を出したこと、右動議も一括説明が聴取可能であったことを前提とするものであること、一括説明の後に一括説明が聴取不可能であったことをうかがわせる質問等は全く出ていないこと、かえって、株主一九一番、株主九〇五番及び株主九番から一括説明の内容を前提とした質問が出ていることが認めらる。

したがって、一括説明が本件総会に出席した者にとって聴取が不可能であったと認めることはできない。

③ 次に、<書証番号略>によれば、別紙質問事項(一)記載の事項が事前質問状のなかに記載されていたことが認められるところ、原告らは、右事項はいずれも本件決議事項の合理的な判断のために必要な事項であるにもかかわらず、これに対して説明がされなかった旨主張するので、右事項につき一括説明において説明がされているかをみる。

ア 別紙質問事項(一)記載の一1の質問(短期借入金について)については、<書証番号略>によれば、岩佐副社長から、短期借入金は市中銀行協調融資団からの長期借入金を短期借入金に借換えをしたこと等により増加した旨の説明がされていることが認められ、右説明において短期借入金が増加した原因が述べられているから、この質問に対する説明はされているということができる。

イ 別紙質問事項(一)記載の六の質問(社長発言等について)については、<書証番号略>によれば、池亀常務取締役から、福島第二原子力発電所3号機の原子炉再循環ポンプの事故について、流出部品及び金属粉等の発生及び回収の状況について詳細な説明があり、新設ユニットと同様の程度にまで洗浄された旨が説明されたことが認められ、また、原子炉再循環ポンプの水中軸受けは「完全溶け込み溶接型」と「一体遠心鋳造型」とが強度において同等であり、福島第二原子力発電所3号機のポンプを製作した会社が「完全溶け込み溶接型」を開発していることや、過去に被告の他のプラントで「完全溶け込み溶接型」を採用した実績があることを考慮したうえで、「完全溶け込み溶接型」を採用することにしたこと、ケーシングの再使用に当たっては諸々の検査を実施していること等の説明がされていることが認められるから、この質問に対する説明はされているということができる。

ウ 別紙質問事項(一)記載の七3の質問のうち、運転管理の問題と運転マニュアルの点については、<書証番号略>によれば、池亀常務取締役から、福島第二原子力発電所3号機の原子炉再循環ポンプの事故について、ポンプ振動発生時の運転マニュアルの規定が不適切であったことから、当初の警報発生後も直ちにポンプ停止に至らなかったこと、事故後に運転マニュアルを改訂したこと等の説明がされていることが認められるから、右の点に対する説明はされているということができる。

エ これに対し、別紙質問事項(一)記載のその余の事項については、一括説明において各質問に的確に対応した形での説明がされたことを認めるに足りる証拠はない。

(2) (事前質問状記載の質問事項について)

① 右にみたとおり、別紙質問事項(一)記載の質問事項のうち一1、六及び七3の一部の事項以外については、一括説明で説明があったとは認められない。

しかし、以下に述べるとおり、これらの説明がされなかった質問事項は、本件決議事項の合理的な判断のために必要な質問であると認めることはできない。

ア 別紙質問事項(一)記載の三ないし五、七4及び七3のうちの責任の所在の事項については、営業報告書報告の件という議題との関係において関連性があるかどうかはともかく、本件決議事項の合理的な判断のために必要な質問であるとは認められない。

なぜなら、右質問事項のうち三、四及び七3の一部については、福島第二原子力発電所3号機の事故及びその運転再開についての取締役会等の運営状況や個々の取締役等の具体的な対応を問題にしようとする趣旨の質問であると解するのが相当であり、また、右質問事項のうち五及び七4については、右事故の状況についての公表の在り方について批判する趣旨の質問であると解するのが相当であって、本件決議事項である利益処分案承認の件と関連性があるとは認め難いからである。

イ 別紙質問事項(一)記載の七の1及び2の事項についても、本件決議事項の合理的な判断のために必要な質問であるとは認められない。

この点に関し、原告らは、福島第二原子力発電所3号機の事故と同様の事故が再発する危険性の有無の判断が、事故が再発しないことを前提として立案された利益処分案の承認に当たって考慮されるべきである旨を主張する。

しかし、既に述べたように、説明義務は、平均的な株主が議決権を行使するに当たり合理的な判断をするのに必要な範囲で説明がされれば尽くされているというべきであるから、ごく一部の株主にしか理解ができないような科学技術上の問題点については説明義務が生じないと解するのが相当であるところ、<書証番号略>によれば、一括説明において、池亀常務取締役から、福島第二原子力発電所3号機の事故の内容及び原因並びに事故再発の防止策について相当程度に詳細な報告や説明がされていることが認められるのであり、平均的な株主が事故の再発の危険性の有無を判断するのに必要と認められる範囲での説明はされているものということができる。

右の七の1及び2の事項は、右事故の原因が原告らの主張するいわゆる共振現象によるものか否かについて、ごく一部の専門的知識を有する株主にしか理解できない科学技術的な説明を求める質問であると解するのが相当であり、前記の一括説明に加えて株主総会において説明を求めるのがふさわしい事項であるということはできず、したがって、本件決議事項の合理的な判断のために必要な質問であるとは認められない。

ウ 別紙質問事項(一)記載の一8の事項についても、本件決議事項との関連性があるとは認められない。

なぜなら、原子炉等廃止措置引当金の積立額は原子炉等廃止措置引当金に関する省令(平成元年通商産業省令第三〇号)により決まるものであり、右省令の定めがあることを承知したうえで右質問がされていると認められることを考慮すると、右質問の趣旨は右省令の当否についての被告の見解を求めるところにあったと解されるが、右省令の当否の問題が本件決議事項と関連性がないことは明らかだからである。

エ 別紙質問事項(一)記載の一9の事項についても、本件決議事項との関連性があるとは認められない。

なぜなら、貸借対照表の内容についての質問は、その概要が平均的な株主にとって理解できる程度で、かつ、利益処分案の判断に有用である範囲内でのみ、利益処分案承認の件という議題と関連性が認められると解するのが相当であるところ、<書証番号略>によれば、岩佐副社長から貸借対照表について詳細な一括説明がされていることが認められ、これに質問の内容自体から前年度に前払金の内容についての説明があったことがうかがわれることも併せて考慮すると、一括説明の他に、更に右質問事項の質問をすることが本件決議事項の判断に有用であったとは認め難いからである。

なお、原告らは、右の質問事項は原子力発電にかかるコストに関する質問であり、原子力発電を推進すべきか否かの判断の基礎となる事項であるから、本件決議事項と関連性があると主張する。しかし、<書証番号略>によれば、一括説明において、岩佐副社長及び池亀常務取締役から、特に原子力発電の関係について、原子力発電事業に関わる各種の引当金、原子力防災及び原子力保険等についての説明があったことが認められるのであるから、原子力発電のコストについては、平均的な株主が利益処分案を判断するについて有用である程度に説明がされていたことが認められ、右の説明以上に更に細部にわたって前払金の内容を質問する意義が認められない。

オ 別紙質問事項(一)記載の一の2ないし7の事項については、貸借対照表又は損益計算書の記載内容についての質問の形式をとってはいるものの、これらの質問を実質的にみると、いずれも福島第二原子力発電所3号機の事故により生じた損害額についての質問であると解するのが相当である。

そこで、別紙質問事項(一)記載の二の事項について検討すると、<書証番号略>によれば、福島第二原子力発電所3号機の事故は昭和六四年一月一日から六日にかけて発生したものであり、本件総会当時右3号機は停止中であったことが認められるから、原告らをはじめとする株主らには、右事故による相当程度の損害発生が予想できたものということができる。そうであるとすると、右事故により生じた損害の金額によっては、次期繰越利益を増やして右損害の補填に備えるという対応もあり得るところであり、利益処分の内容に変更が生じる余地もあると考えられるから、右二の事項が本件決議事項と関連性がないということはできない。

しかし、<書証番号略>によれば、一括説明において、池亀常務取締役から、福島第二原子力発電所3号機の修理に要した費用については、なお、復旧作業を継続中であるから、現段階では言えないが、右3号機停止による平成元年度の火力燃料の増加分は一八〇億円程度である旨の説明がされたことが認められるから、右質問に関する説明が一応されるとともに、当時の段階で完全な説明をすることができない理由も明らかにされたものということができる。

したがって、株主としては、被告の貸借対照表、損益計算書等の内容と右説明とによって、平成元年度の利益処分案についての判断が可能であったと解するのが相当であり、右二の質問事項は、それについての詳細な説明が本件決議事項の合理的な判断のために必要な事項であったということはできない。

② さらに、別紙質問事項(一)記載の事項以外の事前質問状の内容を見ると、<書証番号略>によれば、原告らから被告に提出された事前質問状に記載された延べ五五〇〇項目にも及ぶ事項の大半が福島第二原子力発電所3号機の事故を中心とする原子力発電事業に関する細かな事項又は科学技術的な事項であることが認められ、これらは本件決議事項の合理的な判断のために必要な質問とはいえない。

③ したがって、事前質問状に記載された事項については、本件総会において一括説明及び質疑応答がされたうえで質問受付が打ち切られた時点以降に、本件決議事項の合理的な判断のために必要な質問が株主らから提出される見込みはなかったと解するのが相当である。

(3) (議事進行の動議)

<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、本件総会において質問受付が打ち切られる直前に、株主二一五番から、速やかに議事を進行させて議案の審議に入るべきである旨の動議が提出され、これが可決されたことが認められる。

右事実によれば、右動議が可決された時点において、出席株主の多数がこれ以上質問を受け付けても議題の審議に有益な質問が出るとは考えていなかったことが推認できる。

(4)  以上を総合して判断すれば、本件総会において質疑応答が打ち切られた時点以降に、本件決議事項の合理的な判断のために必要な質問が更に提出される可能性があったとは認められないから、議長が、質問のために手を挙げている株主が存在することを知りながら、質問受付を打ち切り、改めて質問する機会を与えなかったからといって、説明義務に違反するということはできない。

2  原告広瀬の本件総会当日における質問について(請求原因3(一)(2))

(一)  原告らは、本件総会において、原告広瀬が、同人が提出した事前質問状に記載された別紙質問事項(二)記載の事項について質問しようとしたところ、マイクの取り下げ等の妨害により質問することができず、質問できた事項についての説明も聞き取れなかったとして、説明義務に違反する旨を主張する。

(二)  しかし、次のとおり、別紙質問事項(二)記載の事項は、いずれも、本件決議事項に関連性のない事項であるか、又は、既に一括説明で必要な程度の説明がされた事項であるということができる。

(1) <書証番号略>によれば、別紙質問事項(二)記載の五ないし八の事項については、次のとおり、一括説明において岩佐副社長及び池亀常務取締役から説明がされたものと認めることができる。

まず五については、運転マニュアルが不適切であったこと及び既に改訂されたことの説明がされたことが認められる。

次に、六については、ケーシングについて各種検査を行ったこと及び安全と判断して再使用することの説明がされたことが認められる。なお、運転再開の決定に参与した取締役がだれであったか等の質問は本件決議事項とは関連性がないと解するのが相当である。

七については、タービンには金属粉が認められなかったことの説明がされたことが認められる。

さらに、八については、使用済燃料の再処理を現在イギリス及びフランスの原子燃料公社等に委託していること、使用済燃料をイギリス及びフランスの再処理工場まで輸送を行っていること、英国核燃料会社及びフランス核燃料会社に対する使用済核燃料再処理施設建設資金の貸付け等により貸借対照表上の投資等の金額が増加したことが説明されたことが認められる。

(2) また、別紙質問事項(二)記載の一ないし四及び九の事項については、次のとおり、いずれも本件決議事項と関連性がないということができる。

まず、一については、被告の株価の下落及びそれに対する取締役会の対応が本件決議事項と関連性がないことは明らかである。

次に二ないし四及び九については、一般的な原子力発電の危険性及び原子力発電推進の当否に関する質問であると解されるところ、右のような質問が営業報告書報告の件という議題との関係において関連性があるかどうかはともかく、本件決議事項と関連性があると解することはできない。

(三)  したがって、原告ら主張の質問妨害の有無等について判断するまでもなく、原告広瀬の質問について説明義務違反が生じる余地はない。

3  原告坂口の本件総会当日における質問について(請求原因3(一)(3))

(一)  本件総会において質問受付開始後、最初に指名された株主から議決権行使書に付されたD記号について質問がされたこと、荒木常務取締役が右D記号の意味について知らない旨の回答をしたこと、原告坂口が更に右D記号について質問をしたこと、及び議長が荒木常務取締役が回答したとおりである旨説明をしたことについては、当事者間に争いがない。

原告らは、これらの説明が虚偽であること及び原告坂口の質問に対する説明がされなかったことを本件決議の瑕疵として主張するが、右D記号の件は本件決議事項とは関連性のない事項であるから、それについての説明が仮に虚偽であっても、また説明がされなくても、そのことによって本件決議に瑕疵があることになるものではない。

(二)  原告らは、議長が、原告坂口の質問に対して、質問しようとする内容も確認しないまま質問時間を三分以内に制限したことを、本件決議の瑕疵として主張する。

しかし、株主総会において、議長は、議事を整理する権限を有するものであるところ(商法二三七条ノ四第二項)、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば本件総会では多数の株主が質問の機会を求めていたことが認められるのであるから、そのような場合には多数の株主の質問を聞く機会を保障する必要があり、議長が合理的な範囲内と認められる時間制限を質問者に課することは、議事の整理としてむしろ適切であるというべきであって、その際に質問事項の確認をする必要があると解すべき理由はない。

(三)  また、原告らは、議長が総会屋らの怒号に対して何の措置も執らなかったことは本件決議の瑕疵になると主張する。

しかし、<書証番号略>によれば、議長は、本件総会において、議場が騒がしくなったときには静かにするように何度も呼びかけていたこと、また、この原告坂口の質問の際には、原告坂口が長時間にわたって質問をする気配を示したために、議長は、議場を静かにさせることよりも、原告坂口の質問時間を制限することに意を用いたことが認められるのであって、議長が殊更に怒号を利用して不当な指揮をしたということはできない。

三請求原因3(二)(議案審議及び議事運営の瑕疵)について

1  議案審議の瑕疵について(請求原因3(二)(1))

(一)  まず、原告らは、議長が、株主四〇番を指名したのに対して株主四四番を名乗る株主が発言しているにもかかわらず、その発言を制止しなかったことを、本件決議の瑕疵として主張する。

しかし、株主総会において、議長は、議事を整理する権限を有するのであり、多数の株主が質問や動議の提出を求めた場合には、その裁量により株主を指名することができるのであるから、仮に議長が指名したのとは別の株主が発言したとしても、議長がその発言を制止しなかった場合には、議長がその発言を許可したものと解され、そのこと自体が株主総会決議の瑕疵になると解することはできない。

(二)  次に原告らは、仮に議長が株主四四番を指名していたとしても、特定の株主と結託し、意図的に株主総会における株主の権利を封じたものであって、そのような目的で行われた議事運営によって得られた決議には瑕疵がある旨を主張する。

しかし、本件総会において質疑応答が打ち切られた時点においては、前記二1で判断したとおり、既にそれ以降に本件決議事項の合理的な判断のために必要な質問が提出される可能性があるとは認められない状況であったし、また、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、原告らと同じく原子力発電に反対する株主である株主四番から、福島第二原子力発電所3号機廃止措置特別償却引当金に六〇〇億円、チェルノブイリ救済基金準備金に五〇億円を充てることなどを内容とする利益処分についての修正案が提出され、その修正案が否決されていたこと、右修正案の採択に際して、原告らを含む原子力発電に反対する株主のうちの多数の者が賛成の意思表示をしたことが認められ、反面、右の株主四四番又は四〇番以外に株主三二二番からも議案議決の動議が提出されていたことが認められる。

これらの事実によれば、これ以上株主から提出されるであろう修正案を審議する必要があったとは認められず、原案の採決に移った議長の議事運営が原告らが主張するような不適切なものであったということはできない。

2  著しく不公正な議事運営方法について(請求原因3(二)(2))

(一)  動議の無視について

原告らは、株主二五番及び株主一番から提出された本件総会の散会の動議を議事に付さなかったことを、本件決議の瑕疵として主張する。

しかし、<書証番号略>によれば、株主二五番は原子力発電に反対する株主の議決権行使書にD記号を付したことが不当であることを理由に本件総会を散会すべきである旨を述べたことが認められるところ、後に(四)で述べるとおり、右D記号の問題が本件決議の瑕疵になるものではないことは明らかであるから、右動議を議事に付さなかったからといって、それが本件決議の瑕疵になると解することはできない。

また、<書証番号略>及び弁論の全趣旨によれば、株主一番から提出された本件総会の散会の動議については、議事に付され否決された事実が認められる。

したがって、本件決議に原告ら主張の瑕疵はない。

(二)  議長不信任動議を議長の交代をせずに採決したことについて

動議を採決にかけるその行為自体は、出席株主の意見を問う単純な行為に過ぎないのであり、議長の不信任動議を当該議長自身が採決にかけたからといって、その採決の公正さが失われるとは解されない。

したがって、右事実によっても本件決議に瑕疵があることにはならない。

(三)  総会屋の横行について

既に前記二3(三)及び三1で判断したとおり、意図的に株主の権利を封じるような議事運営がされたとは認められない。

(四)  原告坂口の質問事項を議事進行に関する議題として取り扱わなかったことについて

原告らの主張の趣旨は、被告が原子力発電に反対する活動を行っている株主の議決権行使書の整理番号に故意にD記号を付けたのであれば、被告は、右のような株主に対して差別意識をもって本件総会を運営しようとしていたことになるのであるから、この点を議題として審議し、不公正な議事運営を未然に防止すべきであったにもかかわらず、これを怠ったことが不公正であるというところにあると解される。

しかし、仮に被告の差別意識により右D記号が付けられたとしても、議決権行使書の整理番号が株主総会当日の審議の中で利用されることは通常あり得ないことを考えると、D記号が付されたことにより、右株主らが本件総会当日の審議の中で不平等な取扱いがされるおそれが客観的にあったとは認められない。また、既に判断してきたとおり、右株主らが本件総会当日の審議の中で実際に不平等な取扱いがされたと認めることはできない。

したがって、右事実によっても本件決議に瑕疵があることにはならない。

四請求原因3(三)(招集手続の瑕疵)について

<書証番号略>によれば、被告は本件総会の会日より二週間以上前である平成二年六月一二日及び同月一三日に本件総会の招集通知を発したことが認められる。

したがって、本件総会の招集手続は商法の定めるところに従って行われたものであり、また、特定の株主について招集通知の到着を故意に遅らせたことも認められないから、原告らの主張は前提となる事実を欠く。

五よって、原告らの請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九三条一項本文を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官片山良廣 裁判官杉原則彦 裁判官川畑正文)

(別紙)質問事項(一)

一 貸借対照表の項目について

1 短期借入金が前年度と比較して一〇六五億二六〇〇万円も増加している理由。右借入金増加と福島第二原子力発電所3号機の事故との関連の有無及び改善見通しの有無

2 買掛金が一〇〇九億七五〇〇万円となっており、前年度と比較して二〇七億六〇〇〇万円も増加している理由。特に買掛金のうち、福島第二原子力発電所3号機の定検工事に要した額・内容及び同定検工事に要する買掛金総額。

3 未払金が二〇六四億四七〇〇万円となっており、前年度と比較して五六八億〇六〇〇万円も増加している理由。特に未払金のうち、福島第二原子力発電所3号機の定検工事に要した費用についての未払金額・内容及び同定検工事に要する未払金総額。

4 未払費用額が二一三四億八九〇〇万円となっており、前年度と比較して二一五億三六〇〇万円も増加している理由。特に未払費用のうち、福島第二原子力発電所3号機の定検工事に要した費用についての未払費用額・内容及び同定検工事に要する未払費用総額。

5 固定資産項目中の核燃料に関して、福島第二原子力発電所3号機の事故時に装荷されていた核燃料は資産評価ゼロか。再使用可能とされた分があるとすれば、量はどれだけか。再使用可能とされる理由は何か。

6 売掛金が八八億三七〇〇万円も増えている理由。

7 営業費用明細書上の原子力発電費の項目中、修繕費が六六八億四四〇〇万円であり、前年度と比較して一一八億九六〇〇万円も増加しているが、このうち福島第二原子力発電所3号機の修繕費の額及び修繕の内容、同機の定検工事に関わる修繕総額費。

8 原子炉等廃止措置引当金のうち、福島第二原子力発電所3号機のための額。当期は発電量がゼロであるから、当期発電実績に応じた額はゼロで、省令施行以前の発電実績分の五年間均等割りの額だけか。発電しないと廃止措置引当金が増えないというこの省令に対する会社の見解を、税金の問題も含めて示せ。

9 前払金が一一九億四四〇〇万円となっており、前年度の約二倍近いが、それは、前回同様、アメリカのエネルギー省に対するウラン濃縮代か。減益の中で、多額な前払金を支出したのは不適切ではないか。

二 損害額につて

福島第二原子力発電所3号機の事故の損害額について、少なくとも当期末までの段階で算定した額を示せ。

三 取締役会及び常務会等について

1 平成元年一月二三日の福島第二原子力発電所3号機の再循環ポンプ分解点検の結果が報告された取締役会及び常務会はいつ開催されたか。説明したのは池亀原子力本部長か。また、今後の方策についてどのような検討が行われたか。廃炉の検討をしたか。

2 福島第二原子力発電所3号機に関する事項は「重要なる業務執行」として何回取締役会及び常務会に付議されたか。そのすべての会議に那須取締役社長と池亀原子力本部長が出席しているか。

3 福島第二原子力発電所3号機事故の発表は、発表ごとにその内容が異なっているが、これは、取締役の職務の遂行に関して不正の行為に当たらないのか。

四 監査役について

再循環ポンプ分解点検の結果は「会社に著しき損害を及ぼすおそれある事実」(商法二七四条の二)に当たるが、監査役は、いつ取締役から報告を受けたか。

五 転換社債について

福島第二原子力発電所3号機の再循環ポンプの分解点検は平成元年一月二三日に行われ、その結果の公式発表は同年二月三日(新聞は翌日)に行われたが、転換社債発行を右分解点検後結果発表前の同年一月三一日に行ったのはなぜか。

六 社長発言等について

那須社長は、福島第二原子力発電所3号機の事故後の記者会見において、「金属片を一〇〇パーセント回収し、新品同様になるまでは運転再開という言葉は使わない」と述べたが、この言葉の意味は最近になって変わったのか。水中軸受けリングが激しく衝突したケーシングは、新品同様といえるか。金属磨耗量の算定及び金属片・金属粉の採集の詳細はどのようなものか。また、炉内に四〇ミリ×一〇ミリの金属片が最低四個残っているとされるのに、金属片を一〇〇パーセント回収したといえるか。

さらに、水中軸受けリングを福島第一原子力発電所でも使用している一体鋳造型のものに取り替えることが、より安全、適切な措置ではないか。BWR原発を使用する他社は一体鋳造型軸受リングを使用し、東京電力においても、福島第一原子力発電所についてこれを使用しているのに、なぜ、3号機について溶接型にこだわるのか。

七 その他

1 福島第二原子力発電所3号機の事故について、溶接部の溶け込み不足のため脱落したとされる水中軸受けリングの脱落状況及び再循環ポンプの異常振動との関連、共振周波数などの状況はどのようなものか。

2 平成元年二月二三日にバイロンジャクソン社から水中軸受けリングの共振現象についてどのような報告を受けたか。東京電力においてこれを確認するためにどのような実験をしたか。

3 右事故の際、振動警報が発生しているのに長時間運転を続けた運転管理の問題と運転マニュアルの関係、その結果生じた責任の所在などを明らかにせよ。

4 同事故の発表において、振動警報発生、ポンプ内部破損状況、炉心部への金属片の流入、振動計が振り切れていたこと、水中軸受リングが羽根車とケーシングの間に挟まっていたこと、水中軸受リングの外周部が変形していたことなどを直ちに発表せず、一年以上の期間にわたり小出しにしてきた理由は何か。

(別紙)質問事項(二)

一 被告の株価は大幅に下落しているが、このような下落は被告による環境破壊に対する批判によるものと思われ、これについての責任を取ることを含め、取締役会はどのように対応するのか。

二 原子力発電推進について、それに対する社会的批判を踏まえて、取締役会で議論が行われたはずであるが、推進と反対はそれぞれ何名か。現方針を取るに至った理由は何か。

三 原子力発電を行ううえで、チェルノブイリ事故の正確な災害状況を把握するための調査を検討しているか。

四 被告は高速増殖炉を開発するということであるが、高速増殖炉の発電コストは軽水炉と比較してどうか。このことの責任者はだれか。また、このような世界的に孤立した方針を取ることについて、従業員の意向を確認したことがあるか。

五 福島第二原子力発電所3号機の事故の際、再循環ポンプが振動を起こしても運転を中止しないというマニュアルが重大事故の危険を招いたと思われるのに、これを改訂しないで使用し続けたのはなぜか。現在のものに改訂されたのはいつか。従前のマニュアルどおりに運転を続けた場合、福島第二原子力発電所3号機の事故では、再循環ポンプやパイプが破壊される危険はあったのかなかったのか。現在のマニュアルに改訂した科学技術的な根拠は何か。被告の原子炉再循環ポンプにおいて、大口径パイプ破断に至るポンプの振動条件はどうか。

六 福島第二原子力発電所3号機の再循環ポンプのケーシングが水中軸受けリングとの衝突で大きくえぐられていることが認められているのに、そのケーシングを使用し、かつ、ケーシング内部の検査もせずに運転再開をするという方針を変更しないつもりか。そのような運転再開についての決定に参与した取締役はだれか。異議を唱える取締役はいたか。

七 福島第二原子力発電所3号機においては、金属粉がタービン内部を通過したことが明らかであり、タービン・ミサイル事故を起こす危険性が高いが、タービン系統の調査結果が公表されない理由は何か。ケミカル・チェックの結果はどうだったか。

八 前年度の株主総会では、イギリス・フランス委託の再処理はまだ開始されていないとの説明がされたが、被告は右両国に再処理プラント建設費用を支払ったはずである。その契約額及び支払額はいくらか。現在まで、再処理は開始されていないのか。

九 原子炉圧力容器の中性子脆化を示す脆性遷移温度のデータを公表せよ。また、同温度が何度に達した場合に、原子炉の運転を停止することにしているのか。

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